ピンポーン!玄関のブザーの音がした。誰か来たのだ。誰だろう。羅島は玄関にスグサマ駆けつけ覗き穴から
表を除いた。そこに現れた姿は、由美子の姿だった。クリーム色の秋物のコートと同系色のラメ入りのお洒落なブーツを履いてちょうど玄関の前に立っていた。『ちっ、あの野郎!まだ生きてやがったのか!?自殺させろと注文つけて大目に金を渡しておいたのに!』思わず羅島は舌打ちをした。
この由美子という女は過去に羅島にしつこく自分の代用品をやるように迫られて断り続けたために闇に売り飛ばされ、レイプ屋に襲われてしまった可愛そうな被害者なのだ。それだけではない。年中家の傍を嫌がらせ工作員に張り込まれ家屋盗聴、盗撮をされまくり、そうされているとしか思えないような嫌味や仄めかしを年中あちこちで受け続けているのだ。そのため過度のノイローゼに陥り、常に目は空ろで焦点も定まっておらず足元はふらつき危なっかしい感じが全身に漂っていた。人に頭を下げて物を頼むと言う事はまずなかった。羅島は常に先制攻撃のみなのだ。従ってあいつを潰す方法はただ一つ鼻から信用しないに限る。まあこれは私の持論だが。
表に立っている由美子のことを無視しているとまたブザーが鳴った。羅島の居場所を知っているのは一度は正式にモデル兼タレントとして仮契約を結んだことがあったからだ。『ちくしょうしつこいな!』そう呟くと羅島はしぶしぶと玄関の扉を押し開けたのだった。
「あのぉ~私ぃ~!この間暴漢に襲われちゃって、だから不安で・・・・・仕方なくて、もうお仕事できないかなとか思っちゃって・・・」そう言い終わるか言い終わらないうちに由美子はその場で手を目に押し当てたまましくしくと泣き出したのだった。「えっ!何だってそんなことがあったのか!大丈夫か!?・・・ああ、仕事なら大丈夫だ!俺が何とかする!とにかくそこで泣かれていると近所迷惑でみっともないから中に入れよ!」
羅島は適当に心配している様子を演技で取り繕ってから由美子のことを部屋の中に上げたのだった。そして、いかにも心配そうにことの―暴漢事件のこと―一部始終を聞くと心から同情したように振る舞い、お茶をご馳走するとその後帰りの電車賃や夕食代まで手渡したのだった。こういう態度だから羅島が裏でやっていることについて誰も気づくことが出来ないのだろう。本当にすっ呆けた野郎なのだ。羅島という男は。